妊娠中の旅行や長距離の移動について

この投稿では、妊娠中の移動が危険である理由について説明します。また、それでも旅行に行きたい人や、里帰りなどの理由で長距離の移動が必要な人には、少しでも危険性を減らすための方法についても説明します。

まずこのページの結論です。妊娠中の旅行や長距離の移動はどの時期もおすすめしません。

妊娠生活はストレスの連続です。「少しでも日常を離れてリフレッシュしたい」「出産前に夫婦二人だけの時間を満喫したい。」という気持ちはとてもよくわかります。また、最近ではマタ旅(マタニティ旅行)という名前で旅行会社が妊娠中の旅行をおすすめするような広告を出しています。

しかし、妊娠中の旅行ははっきり言って博打のようなものです。しかも、賭けるのは赤ちゃんやお母さんの命です。何も起こらなければリフレッシュした充実した時間を過ごせるかもしれません。しかし、何か起こった時は非常に危険です。

マタ旅の危険① 対応してくれる病院にすぐにアクセスできない。

 旅行先は基本的に初めての土地だと思います。しかも、多くの観光スポットは都会よりも医療機関の整っていない自然豊かな地域な場所です。そういう地域ではそもそも病院の数が少ない場合や、病院はあっても産婦人科がないことがあります。実際私が昔働いている関東近辺の病院でさえ、車で1-2時間かけて妊婦健診に来る方も普通にいらっしゃいます。

 もし旅行中に胎動が少ない、出血したなどの理由で緊急で受診が必要になった時、あなたは心配なプレッシャーの中で、診療を受け付けてくれる病院をすぐに見つけ出せるでしょうか。見つけても車でないと行けない場所にあったり、長時間の移動が必要かもしれません。それが夜間だったとしたら診療を行っている病院はさらに少ないでしょう。地元の人であればすぐに対応可能な病院を思いつくでしょうが、旅行中の人にとってそれは難しいと思います。一刻一秒を争う事態の場合、そのタイムロスが命取りになることもあるのです。

マタ旅の危険② 診療先の医師が今までの経過がわからない

 またもし病院にたどりつけたとしても不利な条件があります。それは診療先の医師が今までのあなたの経過を知らないことです。妊婦健診を行っている病院であれば、初期検査の結果や前回の診療の結果などの情報がカルテに記載されているため、医師はその情報をもとに診療を行うことができます。しかし、初めて病院に受診する患者さんの場合、医師は患者さんの背景やこれまでの健診の情報などを一から把握しなおさなければなりません。そのため、前提条件が抜けてしまったり、素早い対応ができなかったりする可能性があります。

マタ旅の危険③ 万が一、入院が必要になると帰れない

 この危険性については見落としがちですが、最も困ることです。万が一旅行先で入院が必要になった場合、地元の病院へ転院できない可能性が高いです。例えば、切迫早産という張りの増悪により早産になりかける病気があります。この病気では車などの移動で張りが増悪する可能性があるため、長時間の移動は危険です。切迫早産が落ち着くまで、最悪赤ちゃんが産まれるまで病院に入院が必要、なんてもこともあります。また転院するにも自分の都合での転院の場合には救急車は使用できませんので、民間の救急車を自費でお願いする必要があります。

 さらに困るのは、赤ちゃんが入院になってしまった場合です。例えば早産での入院の場合、場合によりますが赤ちゃんは数週間から数か月程度の入院が必要になることもあります。お母さんは通常帝王切開だったとしても、出産後1週間程度で退院となることが多いです。そのため、お母さんが赤ちゃんに会うためは、近くに宿をとるか、家と旅行先を何度も往復する必要が出てきます。もちろん早産の赤ちゃんを転院させるのは赤ちゃんの負担になるため、医療上必要がなければしません。

最悪なのは海外旅行です。海外でもしこのような事態に陥ると、日本に帰ることができない、旅行先で産んだとしても莫大なお金がかかる、言葉の壁で何が起こっているかわからないという地獄のような状況になることがあります。妊娠中の病気は通常そのほとんどが、海外旅行保険ではカバーできません。また海外で産まれた赤ちゃんの保険も聞いたことがありません。もし早産の赤ちゃんが保険なしでNICUに入院すると数千万単位のお金がかかることもあります。

以上が、旅行先でトラブルが起こった場合の危険性です。妊娠中はいつ誰にでもトラブルが起こる可能性があります。何もなければ、リフレッシュになるかもしれませんが、ここまでの危険性を冒していく旅行が本当にリフレッシュになるでしょうか?皆さんよく考えてみてください。

もし長時間の移動が必要な場合の対応

 このような危険性はあるものの、例えば里帰りや急用などで長時間の移動が必要になる場合もあるでしょう。そのような場合の対処法について、以下に記載したいと思います。

①大前提 主治医に確認する。

 移動の前に主治医に旅行や移動をしていいか確認しましょう。確認するのは不安だし怖いかもしれません。でも聞いてください。状況によっては移動を絶対にやめてほしい患者さんがいるからです。例えば前述した切迫早産やその他急変する可能性が普通より高いかもしれない患者さんです。

 多くの医師は事情を説明すれば、絶対にだめとは言わないはずです。旅行について聞かれた医師の返事で多いのは「おすすめしないけど、行くのであれば自己責任で」です。絶対に行くな」とはっきり言われる場合は、かなりリスクが高いと思った方がいいと思います。

②緊急時の病院を探しておく

 さて、旅行に行く時に最低限しなければならないのは緊急時の病院の候補を見つけておくことです。できれば第三候補くらいまで、また夜間に診療をしている病院も複数探しておきましょう。持ち物として母子手帳、健康保険証は必ず出先に持っていきましょう。

③移動中の注意点

移動中の注意点としては、まずこまめに休憩をとりましょう。長時間立ちっぱなしは絶対に避けるべきですし、座れる状況でも張った場合はすぐに横になったりできる移動手段が望ましいです。その意味では自家用車は便利だと思います。しかし自家用車でも渋滞につかまるなどした場合はすぐに休憩できない場合もあるので気を付けましょう。

飛行機での移動は、気圧の変化は妊娠に大きな影響は与えないことはわかっていますが、長時間座っている時間が多くなるためエコノミークラス症候群に気をつけましょう。エコノミークラス症候群とは、長時間同じ姿勢を続けることにより足などの血管内の血液が固まってしまう病気です。特に妊婦さんはそうでない人よりエコノミークラス症候群になりやすいと言われています。こまめに水分をとる、こまめに足を動かすなどして血流をよくしましょう。また飛行機会社によっては、早産の経験がある方、双子以上の方、予定日近くの週数の方は搭乗に特殊な手続きが必要になることもあります。事前に確認しましょう。

まとめ

以上、妊娠中に旅行に行く危険性と注意点について記載してきました。妊娠中のお母さんには様々なストレスがかかるのはわかります。でも、リスクを冒していく旅行は本当のリフレッシュになるでしょうか?旅行に行く前にもう一度考えてみてください。

 また、もし急な移動が必要な場合やどうしても旅行に行きたい場合は、緊急の病院などをしっかり探してから行くようにしましょう。

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